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取材7日目 3月10日(金)ついに、久々の大物現る!
燃料補給のためColdfootへ向かう。
3日ぶりに見るブルックスの南側の景色はとても斬新に見えた。
森林限界付近のタイガの森林の光景である。
月がFullに近づいていて景色が明るく写り過ぎる。
オーロラが景色に負けてインパクトがなくなってしまうので、今夜は白一色の山に戻らずに、
なるべく森林など白くない景色を探すことにした。

このブルックスの南側の森林限界あたりには、悠久の日々にわたって侵食された素晴らしい「岩の彫刻」がいくつもある。私はこの道を何度も往来しているので、そのアートを何度も目の当たりにするが、いつ見てもうっとりするような光景である。実はその地球が生んだ芸術とオーロラのフュージョンの世界を虎視眈々と狙っていた。

「今夜かな?」
と、何となくそう思ったが、躊躇しなかった。

燃料をフルにしてからは、その絵にするべきオブジェをどうとらえるか、撮影ポイントを入念にチェックする。
オーロラの出方(方角や動き方)によって、的確に移動するためである。
決まって、おいしい獲物というのは、目の前を一瞬で通り過ぎていくものだ。

空の調子は完璧、いつしかダイヤモンドダストが舞うことがなく、完全にクリアな空になっていた。
そのため放射冷却現象によって強烈に冷え込んでいる。
車の寒暖計はすでにマイナス40℃から動かない。測定不能となっている。
タイヤの空気圧が減り、異常を示す警告ランプが点灯、エンジンのアイドリングが不安定で、何とも言えない不気味な音を発している。ガソリンが揮発出来ないくらいの状態になっているのだろうか。

思わず、このままエンストして暖が取れなくなった時のことを想像していた。
日中なら30分も待てばトレーラーが救ってくれるだろうが、夜間はほとんど無人状態だ。

恐ろしくなって、せめて冷気を遮断するために車のフロントを段ボールで覆ってみた。

辺りが暗くなるころまでに腹ごしらえを済まし、伊藤園の粉茶をすすっているとき、
フロントガラスの向こうにオーロラっぽい、雲らしき筋が見えた。
気になったので車内からデジカメを手に取り、手持ちで写して見る。
デジカメはこのようにオーロラか雲かが判断、フィルムカメラ側の適正露出を計れるが、何といってもその場で瞬時に行えるのが快適である。

雲かと思われた、まだ残照の中の筋はオーロラであった

「こんなに早くから、・・・今夜は大変なことになりそうだ・・・」

急いで「全力防寒体勢」を整え、気合いを入れ車外に飛び出す。
つい数分前に数百キロ先の空にいたオーロラがすぐ目前に迫っていた。
「来たぞ、来たぞ!」

South-Brooks1.jpg


狙っていた方角にオーロラがはまるのは時間の問題と判断、先回りをして一台のカメラはそちらにレンズを向けスタンバイする。もう一台は移動するオーロラを追いかける。

今回の取材の最大の目的は、今年から開催する札幌、東京、大阪の富士フォトサロンの個展のためである。多くの中途半端な作品よりも、一枚で良いから「すごい光景」を絵にしたかった。
なので、今回の取材は、明らかに今までの撮影スタンスとは異なっていた。どこの撮影ポイントにいても、常に景色の中のオーロラを想定しながらチャンスを待っていた。

同じ場所で同じ方向(景色)を見ても、月の位置やその明るさ(月齢)でまったく違う世界になってしまうのだ。今までの経験で、ベストのタイミングで狙った場所にオーロラが舞うことはほとんどない。

天頂を見上げると、その気まぐれな舞いは不穏な動きをしている。
気になったが天頂を撮るには魚眼レンズをつけるしかない。
それは今回の取材では手が空いた時に使うべきと考えていた。

と、天頂から肝心の方向へ一筋の光が降りてきた。

「来たな!」

South-Brooks2.jpg


ここからがショータイムの始まりだったのだ。
「こんな時に!」
寒さで、もう手は動かない。風が強いので私の手袋はまったく機能していない。気力で2台の三脚の間を走り回る。

おそらく体感温度はマイナス50℃を下回っていたのではないか?

この環境ではカメラEOS-1vのバッテリーは10分と持たなくなっている。
5個のバッテリーを車で暖めながら順番に使っていく。
デジタルのEOS-5Dはフル充電でも5分程度。
こんな時何とかなるのはNikonF3であるが、手動なので私の手が持たない。
さらにフィルム交換は外では不可能、手を暖めないと細かい作業が出来ない。

こんなピンチの時に天頂では「その時」が来てしまった!

とても言葉では表現できない、何ものにもたとえようのない早さ、展開、そして複雑な発色。
おそらく100人がこの光景を見たら100人が絶叫するだろう。
まさに「驚異的な光景」が天頂に広がった。
もう、「わ~!!」と叫びながら見ているしかない。
私はその足元の特定の構図に執着し、寒さで凍結してしまっていた。

その瞬間から数分後、やっとの思いでEOS-5Dに魚眼をつけ天に向けた。

South-Brooks3.jpg

この写真が「その時」の残骸である。

まあ、肝心のショットが撮れていればよしとしよう。

その出来事は「脳裏」というフィルムに感動と共に記録した。
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コメント
この記事へのコメント
中垣さんの迫力あるレポートに引き込まれています。
驚異的な光景.百人が百人とも絶叫すると伝えられている景色を想像して
魚眼レンズからの写真も見て、エメラルドグリーンのグラディーションの帯をみて
・・・・本当に素晴らしかったんだろうなァ・・・って・・・思いが伝わってきます。
体感温度が50℃??想像を超えています。
いつかまたその時の写真に会えることを楽しみにしています。
2006/03/26(日) 11:07:47 | URL | Mai #-[ 編集]
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